鳥屋野潟の葦で、地域課題に応えるプロダクトをつくりたい
ソーシャルディスタンスツール「ミナモ」の制作ストーリー(1)昨年10月の潟マルシェでデビューした、鳥屋野潟の葦でつくられたプロダクト「ミナモ」。(関連記事 : ミナモ ~鳥屋野潟の葦からうまれたプロダクト~)
実はこのプロダクト、鳥屋野潟の畔にあるデザイン事務所U・ STYLEの松浦裕馬と、関東で活動する建築デザイナー奥野哲也氏(奥野氏のポートフォリオサイト)によって共同制作されたもので、ソーシャルディスタンスツールとしてつくられました
いま、鳥屋野潟の水辺にうっそうと繁茂する「葦原(アシハラ)」は放置され、手付かずの状態になっています(関連記事 : 鳥屋野潟の水辺の葦原について)。
このプロダクトを制作した背景には、新型コロナの拡大だけではなく、豊かな生態系をいだく鳥屋野潟の水辺がかかえている現状を伝え、これからの人と水辺の豊かなかかわり方をつくり出していきたいという想いがありました。
そこで今回はU・ STYLEの松浦裕馬が、ミナモの制作の背景にあった想いやストーリーのことを連載でお伝えします。
□今も残る、鳥屋野潟の水辺の課題「手付かずの葦原」
鳥屋野潟は、動物600種以上、植物は400種以上が確認されており、都市の中にありながら豊かな生態系を有している全国的に見ても稀有な潟です。
この潟は、高度成長期の生活排水の流入などにより、水質が悪化してしまいましたが、近年は環境が改善されてきており、潟の魅力に気づき、それを掘り起こして伝えていこうとする新しい活動も増えてきています。
しかし、そんな鳥屋野潟の水辺の「葦原」は今も放置され、手付かずの状態になっています。放置された葦は、水質浄化作用の低下、水辺の陸地化による水性生物の住処の減少、不法投棄の温床などの原因になる可能性があります。
また、現状の葦原はイバラや樹木が侵入し、樹林化、ヤブ化が進行しています。近年ではこれに加えてセイタカアワダチソウやアレチウリといった外来種の侵入・増加も観られ、在来の植物を押し退け、広く高く繁殖しています
□かつての葦原は人々によって整えられながら、暮らしを支えていた
葦は、オオヨシキリなどの様々な生き物の住処や子育ての場になります。また、かつては葦簀(よしず)や建物の材料になる資材として有効に活用されるなど、人々の暮らしをも支えていました。暮らしの糧として、毎冬立ち枯れた葦は収穫され、次の年にも良質な葦が生えるように火入れが行われるなど、常に人が手を加えながら整えられていました。
現在でも、新潟市内の福島潟や、滋賀県の琵琶湖畔の葦原では、水辺の環境や生態系をととのえることを目的に、「火入れ」や「葦刈り」が行われています。
人が積極的に水辺に関わろうとしていくことが、人と生態系の共存につながっていくのではないかと思います。
□放置されている葦を素材にして、地域課題に応えられるプロダクトをつくりたい
ただ、現代において特に需要がなければ、葦が放置されるのはごく自然なことでもあります。
生業とまではいかなくても、鳥屋野潟の葦を利用して地域課題に応えられるものをつくりつつ、まずはこの現状を発信して伝えていくことはできないか、ずっと思案しながら過ごしていました。
そんな中で、コロナ禍がやってきました。(次回へつづく)
- 【ミナモの制作ストーリー 連載記事一覧】
- 1.鳥屋野潟の葦で、地域課題に応えるプロダクトをつくりたい(当記事)
- 2.コロナ禍を機にはじまった、リモートでの制作
- 3.試行錯誤を重ねながら
- 4.距離?それとも距離「感」? ~たどり着いた形~